残念な遺言…「遺したつもり」にならないためには?

「法務局にもってったら、この遺言書では登記に使えないって言われた」

 

お客様から遺言を見せていただくと、全て自筆でこのように書かれていました。

自筆の遺言が有効に成立するためには、

  • 遺言者が自筆で全て書いていること。
  • 日付があること。
  • 押印してあること。

の3要件が必要です。

こちらの遺言は全て揃っているように見えます。

ではなぜ「使えない」と言われたのでしょうか。

 

「村山和男」とは一体どこの誰なのか。

 

問題は「村山和男に譲る」という文言です。

 

遺言者にとっては自分の知っている村山和男さんのことに違いありませんが、村山和男という名前の方は、日本全国に何人もいるでしょう。

赤の他人からするとどこの村山和男さんなのかわかりません。

それが問題なのです。

 

遺言書に載せる内容については、ご自分の財産・譲る相手を誰が見てもわかるように特定して記載しなくてはなりません。

自分だけがわかる内容ではだめなのです。

 

この事例では、親族や近所の方も、村山和男とはあの人のことに違いない、とわかるでしょう。
ですが、赤の他人が見て、間違いなくこの村山和男さんね、と特定できるでしょうか。

書いてあるのは名前だけで、住所も、生年月日も、遺言者との関係すらもかいてありません。

その状況では、遺言者が別な村山和男さんに譲りたかったかもしれない、という可能性を否定できません。

誰がみてもわかるように特定がされていないと、名義を変更することはできないのです。

 

自筆の遺言書の落とし穴

 

この遺言書は譲る土地も登記簿通りにしっかりと特定してあり、ご自分の住所も名前も自筆し、印鑑もきちんと押してあります。

しかし、譲りたい相手の名前しか書かなかったことで、せっかく遺した遺言が全く使えないものになってしまったのです。

自筆証書遺言の怖いところがまさしくここです。

 

この場合、遺言したい財産はひとつだけですから、自筆で遺すのも簡単なケースなのですが、書いたものを専門家にチェックしてもらえば、このような事態にはならなかったと断言できます。

 

 

結局遺産分割協議が必要に…

 

この事例では、遺言が使えなかったために、

  1. 遺言者の相続人を特定し、全員に連絡をとり、いったんお一人に当該農地を相続してもらう
  2. その方から村山和男さんに農地を贈与してもらう

という手続きを踏むことになりました。

もちろんお金も時間も手間もかかります。

 

せっかくの善意がこのような残念なことにならないよう、遺言は

「遺したつもり」

にならないよう、専門家に相談しながら作成することが大事です。

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