事例から考える おひとりさまに起こりうること
もし急に入院することになったら
佐藤花子さん72歳。
家族は猫2匹。
賃貸マンションで悠々自適のおひとりさま生活を満喫しています。
趣味はウォーキングとテレビをみること。
この年齢にしては足腰は丈夫で、大きな病気はしたことがないのが自慢です。
そんな健康自慢の花子さんですが、ウォーキング中に転倒して救急車で運ばれることになりました。
診断は足首の骨折で、1か月の入院が必要とのこと。
花子さんは足首よりも頭が痛くなってしまいました。
身の回りのものを自宅から持ってきてくれたり、購入して準備してくれる人がいない…
身動きできなければ、医療費はどうやって払うのか…
身元保証人を求められた…
猫のお世話は誰がしてくれるの…
そういえばコンビニ払いの携帯料金がまもなく期限だった!電話が使えなくなったらおしまいだわ!
パニックです。
頼める人がいない!
今までの生活で他人に頼ることはありませんでしたから、自分が動けなくなって初めて誰かにお願いしないとどうにもならない問題があることを知ったのです。
両親はすでに亡くなっているし、近い身寄りである姉は同じように高齢で遠方に住んでいる。
他の親戚とは付き合いもしてこなかったし、おひとりさまを楽しみすぎて親しい友達と呼べる人もいない。
花子さんは、自宅の鍵を預けて家に入ってもらえるような近しい関係の人が皆無だということに気づきました。
ここはやはり姉しかいないということで連絡したところ、姉の娘の優子さんが車で1時間程度の場所に暮らしているとのことで、頼んでくれることになりました。
優子さんがお世話を引き受けてくれ、身元保証人・支払い・猫のお世話すべてお願いすることができ、ひとまず花子さんは安心して入院生活を送ることができました。
自宅に戻れたはいいものの…
1か月後、優子さんに付き添われて退院。
ギプスは取れず松葉づえですが、また自宅に戻って生活できることになりました。
優子さんは子供が小さいし、何より我が家での生活ですから、花子さんはまた元の生活に戻るだけ、と頼る気持ちもありませんでした。
猫に会えるし何より住み慣れた我が家に帰れることがうれしく、花子さんは浮き立つような気持ちでした。
しかし自宅はマンション。慣れない松葉づえではエントランスの階段でさえ上るのは大変です。
お風呂もトイレも困難。
猫も容赦なくけがをした足首のギプスにじゃれついてきます。
さらにリハビリのため、毎日タクシーで病院へ通わなくてはならず、金銭的な負担も大きくなっていきます。
日々の買い物や用事、身の回りのことに不自由が続きます。
これまではひとりでなんでもできていたのに、誰かの助けを必要とする日々。
だけど、ずっとそばにいて助けてくれる人はいない。
せっかく家に帰れたのに、あの自由を満喫していたおひとりさま生活とは程遠い不自由・不便な生活です。
花子さんは心身ともに弱ってきてしまいました。
骨折をする前と後の生活があまりにも変わったことで対応しきれず、少しずつ認知機能の衰えも見られるようになってきました。
猫のお世話が適切にできなくなり、悪臭で近所から苦情が来るようになり、マンションの管理会社から転居してほしいと求められていますが、今の花子さんの状態では引っ越すこともできないどころか、高齢単身女性であることから新たな住居を探すことも困難です。
困ったのは優子さんです。
このままでは叔母が安全に生活できなくなる、かと言って自分が叔母の面倒を引き受けることはできない。
どうしたらいいの…
誰かの助け・支えなしには生きられません
いかがでしょうか。
花子さんもたいへんですが、優子さんの生活にも影響を及ぼしてしまっています。
これが、おひとりさまが直面する問題の一部です。
一緒に課題を解決したり乗り越えてくれる近しい誰かがいないことが一番のリスクなのです。
その結果、兄弟姉妹・めい・おいなどに負担がいくことになるのです。
現代は無縁社会と呼ばれるほど、人と人とのつながりがない社会です。
元気で健康な時は誰ともつながっていなくても十分充実した毎日が送れるでしょう。
しかし、弱ったときには誰かのお世話や助けが必ず必要です。
それを念頭において、縁を作るような生活をしていくことが、おひとりさまには何より大切なことといえます。
また、私たちのような専門家等にもしもの時の備えとして財産管理や任意後見を依頼しておけば、近しい人がいなくても、ひとまず安心といえます。
花子さんのようにパニックにならないよう、もしもの時に頼れる、連絡できる人を確保しておきましょう。
ちなみに、足首の骨折から認知機能の衰えまで早すぎる、と思うかもしれませんが、高齢の方の入院はものすごいスピードで衰えを誘発します。
基本的に入院中の生活は単調で動きがありませんから、脳や身体に刺激がありませんし、入院という非日常な出来事がストレスとなり、年齢的にゆるやかに落ちていた認知機能が急激に低下することは珍しい話ではないそうです。
花子さんのおはなしを自分ごととしてとらえ、必ずくる衰えに「備える」という意識を持つ方が増えるとうれしいです。



