法人での成年後見受任についての考察

後見人が後見できなくなることもある

成年後見人として活動している中で一番不安に思うことは、

「自分が被後見人より先に死んだらどうしよう」

ということです。

年齢が被後見人より若いからと言って、長く生きるかどうかはわかりません。

特に昨今、突然通り魔に襲われたり、乗っている車ごと陥没した道路の下に落ちたり、外れたタイヤが歩いている自分に向かってきたりと、自分の健康管理などではどうしようもない、不可抗力によって亡くなる方のニュースをよく目にするようになってきました。
そういったニュースにふれる度、自分にこういうことが起こらないとは限らない、と感じています。

人間には「そんなことは自分には起こらない」と思い込むことで過度なストレスや不安、怖れから自分を守るため、「正常性バイアス」が備わっているそうです。

しかし、他人の代理で重要な法律行為を行う後見人としては、バイアスから脱して客観的に物事を考えることが必要だと、日々の後見活動で実感しています。
自分の思い込みや常識は他人には当てはまらず、そこを理解しないことには被後見人の意思決定を支援することなどできません。
人として成長できる業務だと常々感じています。

話を戻しますが、後見人が被後見人より先に亡くなったら(または病気等で後見業務ができなくなったら)どうなるのでしょうか。

成年後見人が欠けてしまったら

民法第843条の2
成年後見人が欠けたときは、家庭裁判所は、成年被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、成年後見人を選任する。

本人のまわりの方が、選任の請求を家庭裁判所に対して行うことになります。

しかし、次の後見人は速やかに選任されますが、亡くなった後見人が預かっていた財産類や記録、帳簿などはどうなるでしょうか。

私たちコスモス成年後見サポートセンターの会員は3ヶ月ごとにセンターに事務報告をしており、預かっている財産も報告していますので、突然亡くなってしまった場合でもある程度スムーズに把握はできるとは思いますが、当人がいない状況での事務の引継ぎはかなりの困難と苦労があるかと思います。
もちろん、被後見人にも少なからず迷惑がかかることになります。

やはりこれまで書いてきたとおり、個人で後見業務をしていると常につきまとうのが、被後見人さんに迷惑がかかるから自分が先に死ねない!という思いです。

そのような双方にとっての不利益を回避するために進めていきたいのが「法人後見」です。

法人後見のメリット・デメリット

法人=複数で後見業務にあたるメリットとして

  • 誰か一人が欠けたとしても代わりがいる
  • 被後見人にとっても後見人が欠けることでの不利益がない
  • 法人内で事案を共有できることで、ひとりで抱えなくても良い安心感。
  • 複数で担当することで、より多くの方を受任することが可能。

後見は多少なりとも他人の人生を背負うことになる業務です。
個人で後見をしていると、守秘義務の問題もあり、相談もままならず一人で抱えがちになります。

そのような不安や孤独感も法人で複数が関わることで相当解消される期待があります。

また、ひとりの負担が減ることで、受任する人数を増やすことも可能です。

反対にデメリットとしては、

  • 複数人が関わることで、事案の完全な共有がうまくいくかどうかの心配がある
  • 財産管理が雑にならないか気を付ける必要がある
  • 守秘義務に対する高い意識が必要

デメリットとしては管理の部分が大きいので、法人が後見業務をするメリットは心理的な部分で大変大きいと思います。

法人後見の現状

現在は成年後見人等の受任者としては、個人が受任することが圧倒的に多いのが現状です。

令和5年に親族以外が成年後見人等に選任された81.9%の中で、法人が選任されたケースは12.3%でした。
データに興味のある方はこちらからどうぞ。

成年後見制度の現状(令和6年4月)厚生労働省

各自治体に設置されている社会福祉協議会が法人後見を受任しているケースが圧倒的に多いのですが、社協の研修会で聞いたところ、

「基本的には個人後見。個人で手に負えないような困難案件のみ法人で受任している。」

とのことでした。

様々な問題を抱えていて、横断的にいろいろな専門職の手や知識などが必要な方の後見を個人で受任する人がいないから、法人として対応している、ということです。

今、成年後見制度を必要としている人は増えているにもかかわらず、成年後見人等になる受任者は増えていません。
それは、後見人の負担がたいへん大きいからです。

他人の生活に関わる支援をし、時には周りの親族から理不尽なことを言われ、ご臨終の場面に立ち会ったり火葬等センシティブな事柄に関わらなくてはいけないケースも多々あり、精神的な負担はとても大きいものです。

そんなエッセンシャルワーカーに近い存在でありながら報酬の保証もされていない部分もあり、なかなか受任したいという人は増えないのは仕方がないことかもしれません。

ですが、法人なら先ほど述べたようなメリットがあり、後見業務をするひとりひとりの負担も軽減され、ひいてはたくさんの人数を受任することができるので、法人後見=困難事例のみ、という現状を、誰でも法人後見に変えていくことが今後の社会にとっても必要だと思います。

法人後見は後見人のなり手不足の解消にもつながる

2025年は団塊の世代が全員後期高齢者です。
成年後見制度を利用する方はますます増加することが見込まれています。

法人後見を受任する団体の整備が急務と考えます。

私も、成年後見を含む高齢者の福祉について考える仲間を増やし、法人の設立に向けて活動していきたいと思います。

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